第4章 磨斧作針ー3日目ー
「…何なの。俺に構って欲しいの?飛雄にでも言われたわけ?俺に近付いてこいって…あぁ飛雄にそんな頭ないからウシワカか」
「徹君…?何言っ…!」
「黙れよ」
グッと掴まれている力が強くなり、痛みに顔を歪めた。まだ後頭部もジンジンと痛みを発している。
私の言葉を遮るように、乱暴に唇を塞がれて思わず目を見開く。
いつもの徹君じゃない彼に恐怖を感じて逃げ出したくなる。でもそれでは何も解決しない。彼をこうしてしまったのが私ならば、救ってあげるのも私しかいない。
「ハッ…何だよ、抱かれにでもきたの?つくづく…」
「徹君話を聞いて!自分を追い込まないで…見失わないで」
「っ…」
今度は私が彼の言葉を遮る。少しだけ押さえ付けている力が弱まった。ジッと彼を見つめてみれば少しだけ瞳に光が戻ったようだ。
「そんなこと言ったって、どうせ俺よりも飛雄やウシワカの方が良いんでしょ。俺はあいつらに勝てない…」
「徹君が飛雄君や若利に勝つ必要ある?バレーって1人でやる競技?違うよね、周りの力を存分に引き出すことが出来る徹君ならわかってるよね。バレーは1人じゃないんだよ…それを見失っちゃダメ。徹君が青城のみんなを信じてトスを上げているように、みんなだって徹君のこと信じてる」
烏野と飛雄君よりも、白鳥沢と若利よりも。きっと徹君と青城の方が絆は大きいと思うよ。
そう続ければ、徹君の表情はいつものものに。それにホッと安心すればスルリと手を抜いてそっと頭を撫でてやる。
光が戻った徹君の瞳。今度は雫が溢れんばかりだ。
そっと抱き締めて、子供をあやすように背中と頭を撫でれば震え出した身体。よほど追い込んでいたのだろう、しかし何かが起こる前で本当に良かった。彼からバレーを奪うことにならなくて。
「京香ちゃん、ごめっ…」
「ふふ、大丈夫だから。全部吐き出しちゃいなさい」
「中学、時にも…飛雄に手を出し…そうになって…岩ちゃんが、京香ちゃんと同じこと…言ってくれたのに…」
「一君が…そっか。良い相棒を持ったね」
「6人で強い方が、強いって…俺わかってたのに…」
あれ、話をちゃんと聞いてあげなきゃなのに。
徹君の声が段々と遠くなって…
そう自分の異変を感じた頃には、私は意識を手放していた。