第4章 磨斧作針ー3日目ー
一君にもジャージを返さなければと思えば、2階をキョロキョロと探してみる。
もしかしたら部屋に居るかな?って思って覗いてみたら一静君と貴大君しか居なくて、一君と徹君のことを聞いてもわかんないって言われちゃったし。
じゃあベランダかな、そう思えばゆっくりと扉を開けた。
そこには部屋に居なかった一君の姿が。
振り返って私を捉えれば不思議そうな顔をした。
そりゃそうだ、2階は青城のフロアなのだから。
「どうかしました?」
「一君にジャージ返さないとって思って。ありがとう」
「明日でも良かったのに…」
ベンチに座っていた一君。私が近付けば、無言で隣を開けてくれたので素直に隣に座った。
「ねえ一君、ちょっと相談してもいい?」
少しの沈黙の後、そう私が口を開けば小さく頷いた一君。表情が少し戸惑っている。きっと普段女の子から相談とかされないんだろうなということがわかった。難しいことじゃないから、と微笑んでから続けた。
「今日の午後あたりから、私の思い過ごしかもしれないんだけど徹君に避けられてるの。その理由、一君知ってる?」
「及川に…?…すみません、わかんないっす」
「そっか、一君でもわかんないか…私なんかしたのかな」
「言われてみれば確かに…なんか様子変っすねあいつ」
「やっぱりそう思う?ねえ、徹君今どこにいるかわかる?」
「部屋に居ねえなら…おそらく…」
「…わかった、ありがとう。私行って話してくる」
険しい表情になった一君。もし、何かあったら徹君のフォロー頼んだよと微笑めば、寒くなってきてるから風邪ひかないようにと伝えてから徹君が居るであろう場所に走る。
『あいつ、すぐに自分のこと追い込む癖が…』
一君の言葉が頭をよぎれば、胸騒ぎが大きくなってくる。
私の言葉を聞いて、一君も気付いたのだろう、お願いしますと言われれば一刻でも早く徹君の元へ行かねばならないと強く思った。
荒い呼吸を繰り返し、辿り着いた場所は第二体育館。
キュッキュッと擦れるシューズの音、バシンッと叩きつけられるようなボールの音。彼は此処にいる。私はそう確信すれば深呼吸を一つしてから扉を開けた。