第4章 磨斧作針ー3日目ー
体育館に戻って、烏野のみんなと話しているとまた感じた視線。それにハッと思い出した。貴大君のことで頭がいっぱいになっていて忘れていたが、徹君の様子がおかしいのだ。…私に対してだけ。
「クソ川!何ボケっと突っ立ってんだボゲェ!」
「痛!岩ちゃんちょっと優しくして!」
青城コートから聞こえてきた一君の怒鳴り声と徹君の声。
やはり普通のようだ。様子がおかしいのは考え過ぎなのだろうかと思えてくる。
「京香さん、夕食の準備をって清水先輩が呼んでました!」
「あ、もうそんな時間?わかった仁花ちゃんありがとう」
少し考え込んでいると、仁花ちゃんが呼びに来てくれたので大地君に一言告げてから夕食作りに取り掛かる。潔子ちゃんに大丈夫かと心配されたが、もう平気と笑顔を見せればそれ以上追求はしてこなかった。
今日の夕食は麻婆豆腐。確か孝支君が好きだとか言っていたような。サラダとスープも用意すれば、この人数のご飯を用意することにも慣れたらしい。手際よく完成させれば、美味しそうな匂いに頬が緩んだ。
「美味そうな匂い…!あ、スガさーん!麻婆豆腐っすよー!」
「ほんとかー!嬉しいなー」
「スガ、頼むから唐辛子と山椒かけ過ぎないようにしてくれよ…」
「何言ってんだよ旭!激辛なのが美味いんだろー」
「お前のは度が過ぎてるんだよスガー」
バタバタと走ってきた音が聞こえたなと思えば、夕君と翔陽君が駆け込んできた。そして後ろに居るであろう孝支君に声を掛ければ、ニコニコとした孝支君と顔が青くなっている旭君が入ってきた。
夕君と龍之介君はササッと潔子ちゃんの前に移動したかと思えば、今日もお美しい…と言っていた。勿論潔子ちゃんは無視である。
「京香さんおかわりとかもある?」
「うん、たくさんあるからいっぱい食べて。食べ過ぎないようにね」
好物を前にして上機嫌な孝支君。十分唐辛子を入れたのだが、まだ足りないらしくて瓶ごと一緒に持って行ったようだ。スガぁ、と隣で食べている旭君が情けない声をあげた。その様子にクスクスと笑っていれば、青城も入ってきたので皿に盛り付ける。
「おー既に辛そう」
「貴大君…辛いの苦手?」
「いや、甘党なだけ。でも京香さんが作ったのなら鍋の中全部食べられそう」
ニシシ、と笑う貴大君に安心して、もう!と言いながらも私も笑った。