第4章 磨斧作針ー3日目ー
体育館の扉の前まで戻ってきたものの、ゴシゴシと乱暴に目元を拭った為か泣いたのがバレそうだなと思えば中に入れずにいた。
私が扉の前で突っ立っていると、いきなり中から扉が開いたので思わずビクッとする。咄嗟に目の前に居るであろう人物に見られないようにと顔を俯かせた。
「京香さん…?どうしたの?…泣いた?」
「あ…潔子、ちゃん…私…っ」
柔らかな声、それに顔を上げればまた涙が勝手に溢れてきた。潔子ちゃんは少し驚いたような表情をしてからすぐに扉を閉めて背中を撫でてくれた。手にはビブス。どうやら使い終わった為、洗濯でもするつもりだったらしい。
「大丈夫?私でよければ話聞くから。行こう?」
優しく私の手を引いてくれる潔子ちゃん。どっちが年上なのかわからないこの状態に情けなくなってくる。
私が今朝洗濯物を干した場所に着けば、待っててと言われ階段に座った。涙はやっと止まったようだ。視界の端では一君に借りたジャージが風に揺られている。後で返さなきゃ、あまり働かない頭で考えれば目の前に差し出されたのはペットボトルの水。
「目元に当ててれば少しは腫れも引くから…」
「ありがとう潔子ちゃん」
「何かあったの?誰かに何かされた?」
隣に座った潔子ちゃんにお礼を言えば、ペットボトルを目元に当てる。ひんやりとして気持ちが良い。心配そうな声、潔子ちゃんになら話しても良いかなと思えばポツリポツリと話し始めた。
孝支君に何度も告白されていること、飛雄君にもしっかりとは言われてないが本気だって言われたこと、大地君に真剣に考えて下さいって言われたこと。そしてさっき貴大君に告白され、諦めるって言われたこと。返事をせずに待たせて、傷付かせてしまってること。
「私、正直どうしたらいいのかわからない。ある人にね、逃げるな向き合えって言われて、よし向き合おうって思ったんだけどさ…」
「焦ることないんじゃないの?菅原だって、澤村だってすぐに返事をくれとは言ってないんでしょ?ただ今は、あいつらが京香さんのこと好きなんだって気付いて欲しかっただけなんだと思う。俺のことを見てって…そういうことじゃない?」
「でも、いつまでも待たせるわけにも…」
「いいのよ待たせれば。ちゃんと考えて、答えてあげればいいんじゃないの?」
後悔しないようにね、という言葉に私は小さく頷いた。