第4章 磨斧作針ー3日目ー
「…俺さ、あんたが好きだ。"勝利の女神様"じゃなく、京香さんが好きだ」
「…え」
「最初はさ、憧れだけだと思ってた。でも違ったんだよ…昨日、探しに行くのがなんであいつらだけなんだよって。俺だって探しに行きてえし、心配だったんだ。京香さんが及川や岩泉たちと話してるのを見ると苦しいんだよ…」
「貴大、君…」
段々と辛そうに歪められていく表情。あぁわたしは知らないうちに彼を傷付けてしまっていたのだということに今更気付く。
しかし、どうしたら彼の為になるのかと考えてみるものの、変に手を差し伸べてしまえば更に傷付けてしまうことになる。ただ、ごめんと顔を俯かせることしか出来なかった。
暫くの沈黙の後、私を押し付けている彼の力が少しずつ弱くなっていくのがわかった。ゆっくりと顔を上げれば、私に見られたくないのだろう隠すように強く腕を引かれれば抱きしめられた。
「ごめん、今俺の顔見ないで。…烏野の連中とか見てるとさ、本当に京香さんを大切にしてんだなってわかる。俺には付け入る隙もねえ…本当はさ、俺のもんにしてぇけど…」
ー今回は諦めるよ、あんたのこと。
その言葉が私に深く突き刺されば、何も言えなくなる。ごめん、ごめんねと何度も謝れば堪えきれずに涙が溢れ出した。私の存在を確かめるように強くなった彼の力。そしてスッとそれは突然解かれた。
「あー!言ってスッキリした。岩泉は良いとして、及川は辞めとけよ。影山も苦労しそうだな…やっぱり俺にしとけばよかったって言わせてみせる。ボトル持ってくから先に体育館行って」
「ん…ありがとう。貴大君!私なんかを好きになってくれてありがとう。恋愛ではないけど、君のこと好きだよ!」
いつもの笑顔を見せてくれた貴大君。
私も精一杯の笑顔を浮かべて頭を下げると体育館に走る。
「よく言えました。お疲れさん」
「…松川。はは、何だよあれ。諦めきれねえじゃん」
「良いんじゃないの?無理に忘れようとしなくても」
「…お前の手を煩わせなくて良かったよ」
「最初からそのつもりなかったでしょ。無理矢理襲おうとしたら止めてくれ、なんてね」
「…さぁ、どうだかな」
私が立ち去った後、しゃがみ込んだ貴大君に近付いたのは影で見守っていたらしい一静君。彼らが体育館に戻ってきたのは暫く経ってからだった。