第4章 磨斧作針ー3日目ー
ーその違和感を感じたのは午後練の時。
3日目ともなれば慣れてきたミニゲーム。私は審判をやったり気になったことがあれば指摘しに行ったり、勿論マネージャーの仕事であるドリンク作ったりタオル用意したりと動き回っていた。
「京香さん!この時なんですが…」
「あ、大地それ俺も聞きたかった!」
「ん、これはー…」
大地君に呼び止められて、そこに孝支君も加わり話し合う。私の意見を言えば、納得したような2人。ちゃんと烏養コーチの意見も聞いてねと言えば空になったボトルを抱えて水道へ。その時、ふと視線を感じて周りを見てみればバチッと合った視線。
「徹君…?」
何やら険しい表情の徹君だった。昨日までの彼ならば、私と目が合えばニコリとして手を振ってくれていたのに逸らされた視線。私、何かしてしまったのだろうか。話し掛けようかと歩み出すも、ボトルを抱えている私に気付いたらしい貴大君に呼び止められて立ち止まる。
「京香さん1人で行こうとしてんの?俺、次休みだから手伝うよ」
「あ、ありがとう。じゃあ半分持ってくれる?」
駆け寄ってきてくれた貴大君に微笑めば、任せろと笑ってくれた。ボトルを半分持ってもらい、徹君の方を向いてみるも一君と話していた。その表情はいつもと変わらない。やはり私に対してのみ、彼の態度が変わってしまったのだと確信した。
「京香さん?」
「あっ、ごめん!行こうか」
動かない私を心配そうに見ていた貴大君に気付けば、無理矢理笑顔を作ってドリンク作りへと向かう。その間、貴大君からスパイクがどうだのレシーブがどうだのといった話があったのだが、真剣に答えてあげられていたのかさえも定かではない。
何だか胸騒ぎがするのだ。
原因はハッキリとは言えないものの、おそらく徹君。彼と話をしなければならない気がした。何か間違いが起こってしまう前に…
「なあ京香さん。俺、あんたが憧れだって話したよな」
「ん?あ、あぁ朝に言ってたね」
「あれさ、訂正させてくんね?」
「…どういう…」
貴大君の言葉に思わずドリンクを作る手を止めた。ふと、彼の方を見てみれば間近に迫ってきていて言葉に詰まる。グッと腕を掴まれればそのまま壁へと押し付けられた。
それは、初日にされたものとは比べ物にならないほど力が込められていて、恐怖で何も言えなかった。