第4章 磨斧作針ー3日目ー
タオルで汗を拭う一君にドリンクを差し出せば、ゴクゴクと飲んでいる様子を見つめる。そして何かを考えている表情に首を傾げれば、彼の視線が私へと向けられた。
「俺にも、なれますかね。バレーのトレーナー」
「一君がトレーナー?選手でも十分やっていけるのに」
「…いえ、俺には及川のような努力も牛若や影山のような才能もねえ。そんな俺でも、あいつらを支えてやりてえって思うんです」
「そっか。一君がそれでいいっていうなら私は応援する。でもまだ時間はたくさんあるんだから、急いで決めなくてもいいと思うよ。大学行って色んなことを見て、それから考えてもいい。企業から選手として声が掛かるかもしれないしね?」
真面目な表情の一君。彼だって努力を怠っているわけではないし、強豪校のエースを張ってる男だ、下手なわけではない。しかし、今の自分で居られるのは徹君の力があってこそ。そんな自分がいつまでも徹君の側に居たら足枷になってしまうのではないか、そんな感情が彼の表情から読み取れた。
胸がキュッと締め付けられる思いがすれば、彼に手を伸ばしてそっと抱き寄せる。ステージに座っている分、今は私の方が身長が高い為彼の頭をそっと撫でた。
「ちょ、京香さっ」
「一君は優しいね。その優しさに徹君は何回も救われてると思うよ。徹君にとっても一君は大切な人、私にはそう感じたから。だから自信持ちなさい。一君の努力も無駄じゃないから」
私の言葉に段々と大人しくなった一君。小さく頷いたのがわかれば子供をあやすように頭を撫で続けた。そして暫くしてゆっくりと身体が離れたので撫でていた手を止めた。
「必ず、及川たちと全国行きます。だから見ててください。烏野にも白鳥沢にも勝つ…!」
「うんわかった。ちゃんと青城も一君も見てるよ」
「それと、及川のことなんですが…あいつすぐに自分追い込んでオーバーワークする癖があって。少し気に掛けてやって欲しいです」
「徹君ね…わかった、見かけたら止める。よし!そろそろお昼行こうか」
闘志の炎が強くなった一君の瞳。いい表情だと微笑めば、徹君のこともしっかりと頭に入れてステージから降りた。片付けをしながら一君にストレッチさせていると、呼びに来てくれた貴大君と3人で話しながら体育館を出て、途中徹君や一静君とも合流すれば、賑やかな昼食となった。