第4章 磨斧作針ー3日目ー
「私自身、どうすべきなのかわからないんです。少し相談にのってくださいよ、烏養コーチ」
彼がそのまま階段に座ったのを見て私も近くに座る。すると返事の代わりなのか頭に手を置かれて少し乱暴に撫でられた。彼なりの優しさなのだろう、クスリと笑えば大人しく撫でられる。
「いつからだ?つーか影山以外には?」
「飛雄君だけじゃなくて、孝支君からは初日から…後は大地君」
「澤村が?!」
「えぇ、合宿初日の夜に…本気ですからって言われちゃいました」
やはり大地君はそういうキャラではないのか、凄く驚いている烏養コーチ。煙草を揉み消して携帯灰皿に突っ込めば、うーんと唸りだすからすみませんと謝った。
「お前は何を悩んでんだ?あいつらが高校生だからか?」
「そう、ですね。高校生の恋なんて憧れとかが多いじゃないですか。きっと私に抱いてるのだってそうなんです。"勝利の女神様"への憧れじゃないかって…」
「確かにお前の言いたいこともわかる。だがな、あいつら一人一人と向き合わずに逃げてたら何も変わんねえぞ。お前ら若いんだから難しく考えることねえだろ。先ずはぶつかって自分の気持ちに素直になってみろよ」
「自分の気持ちに素直に…」
「そうだ。ややこしいことは後回しにしてよ。ま、お前の貰い手がなかったら俺が貰ってやるよ」
「なっ…烏養コーチ!」
ニヤニヤしながら立ち上がった烏養コーチ。彼の言葉に顔を赤くさせると意地の悪い笑みを浮かべて頭を撫でられた。
「ククッ、本気にすんな。冗談だっつの。まあ、お前に元気がねえと烏野全体が元気なくなるからな。頼んだぜ京香」
「…はい!ありがとうございました」
手をヒラヒラとさせながら合宿所の中に入ってくのを、頭を下げてから見送れば気合いを入れる。とりあえずは仕事をしっかりとやって、彼らと向き合ってみよう。代表決定戦はもう目の前、私の期限もそこまで。
洗濯物を全て干せば、私も食堂へと足早に向かった。