第4章 磨斧作針ー3日目ー
「と、飛雄君落ち着いて?これには訳が…」
「どうして落ち着いていられるんすか。及川さん、ですか」
「ち、違う違う!徹君じゃなくて貸してくれたのは一君」
「…岩泉、さん?」
少しずつ後退りしたのだが、ガシッと腕を掴まれてしまえば逃げれなくなり。飛雄君の鋭い目付きに思わず俯いた。徹君じゃないと慌てて否定すれば少し和らいだ不機嫌なオーラ。それほど飛雄君は徹君のこと意識してるのかと改めて感じた。
昨日あったことを簡単に話せば、不機嫌なオーラが弱まっていくのがわかり安心する。勿論、服が透けていたことや孝支君と会ったことは伝えていない。
「本当にそれだけですか。岩泉さんに何もされてないっすか」
「わっ、う、うん。本当にそれだけ、大丈夫だから…」
いきなり掴まれていた腕を引かれれば、抵抗出来ずに彼の腕の中へ。表情は見えないけれど、心配してくれているのがわかった。彼らの過保護っぷりには思わず笑えてくる。今笑ってしまうと怒られそうだから堪えてるのだが。
「京香さん、今日午前の自主練付き合ってもらって良いっすか」
「自主練?あぁ、まだ翔陽君との速攻のトス未完成なんだっけ」
「っす。成功率8割程っす」
「うんわかった。代表決定戦までには、ほぼ100%に出来るようにしよう。そろそろ朝食出来るだろうし、行っておいで」
「あざっす。後でお願いします」
ゆっくりと私を離せばいつもの雰囲気に戻った飛雄君。少し頭を下げてから食堂に走り出した後ろ姿を見送った。彼はただひたすら真っ直ぐなだけなんだ。自分の好きなことに一直線で全力投球。やはり少しだけ若利に似ている。天才だが努力を怠らない。
私が洗濯物を干そうと振り向けば、煙草を咥えたまま固まってる人物が見えて私も驚きのあまり固まった。
もしかしなくても、今の飛雄君との場面を見られてしまったのだろう。何未成年に手を出してんだ!なんて怒られるだろうか。いやいや私から手を出してるわけではない、誤解だ。そうだ誤解を解かなくては。
「あいつらがお前に対してやけにマジになるな、とは思ってたけどよ。今ので納得したわ」
私よりも先に口を開いたその人物。怠そうに頭を掻きながら此方に近付いてきた。どうやら私は怒られるわけではないらしい。まあ、冷静に考えればめんどくさがって勝手にしろというタイプだなと、私は愛想笑いを浮かべた。