第4章 磨斧作針ー３日目ー

「あ、飛雄君！約束してたトス練しよっか」

「うっす」

「ええ！影山ばっかズルいぞ！俺も京香さんに教えてもらいたい！」

「京香さん！後でまたレシーブ見てください！」

「俺もサーブ、見て欲しいかな」

午前練がひと段落し、自主練習時間。私はマネージャーの仕事をこなしてから飛雄君に声を掛けた。すると周りにいた烏野部員たちが俺も俺もと言ってきたから思わず苦笑した。

「わかった！とりあえず見て回ることにする。それでいい？」

私の提案に頷いたのを見て安心する。それぞれが練習している場所を聞いてからどうやって見ようかなと悩むものの、先ずは約束していた飛雄君の元へと。

ペットボトルを立てて、トスを上げている姿を見つければ何が足りないかをジッと見つめる。暫く見つめていると、あぁそうかと気付いたことがあった。ペットボトルに当たらずにボールが落ちると舌打ちをしている飛雄君に近付いた。

「飛雄君。イメージ、してる？」

「イメージ…」

「うん、翔陽君ならここに飛び込んでくるっていうイメージ。空間認識能力とか指先の力の入れ方とかも大事だけど、先ずは考えてみて。試合でもやるでしょ？ブロッカーがここにいて、スパイカーが飛び込んでくるイメージ。私飛び込むから翔陽君だと思って？」

並べてあったペットボトルを片付けてから、飛雄君にふんわりとしたレシーブを。そしてトスのタイミングに合わせてネット際でジャンプすれば、見事に私の頭上で止まって落ちてきたボール。流石天才、一回言っただけで出来てしまうのか。

「凄いわー飛雄君！一回で出来ちゃうなんて。位置を意識するんじゃなくて想像するの。じゃあ次は距離を伸ばしてブロードいこう」

「うス！」

飛雄君の目が輝いてる。出来なかったことが出来るようになるって楽しいよね。私もよく知ってる。

またふんわりとレシーブを飛雄君に上げれば、翔陽君が飛び込むようにブロード攻撃の場所に飛び込んだ。すると少し距離が短かったか、ボールは手前に落ちてしまった。

「チッ…すんません！クッソ…」

「惜しかったねもう少し！よしもう一回！」

上手くいかなかったことで舌打ちをした飛雄君を宥めるようにすれば、落ちたボールを拾ってまた飛び込む。その練習は確実に頭上でボールが止まるまで続けられた。

ーー天才嫌いの彼が見ていたとは知らずに。