第3章 17:45、あとちょっとでバイトが終わりそうです。
『…』
「え、黙らなくてもよくない?いつもお兄ちゃんのこと考えてくれてるなんて良い妹じゃん?俺嬉しいよ?」
『わかったから。はやくどっか行って』
嬉しいよ?なんて言いながらおそ松兄さんは、私の肩に腕を回してきた。これでは端から見ると、嫌がる女の子にしつこくナンパしているとしか見えない。というか、オーナーに見られてサボってるとか思われたくない。
「ヒッジョーにキビシー!!」
『うるさいから、本当』
おそ松兄さんは昭和ネタのオーバーリアクションをやって、笑いを取りたかったらしいけど本当にうるさい。私のこの無表情を見て、なんとも思わないのだろうか。
「なーなー、瑠璃〜」
『まだ用あるの!?私今働いてるんだけど!?』
「そうカッカすんなって」
小学生の頃から変わらない笑顔で、私の言い分なんて無視をして話し続ける。
「今日さ、俺パチンコ勝っちゃったんだよね〜!!それで!たまには?長男様が?可愛い妹のために?美味しいご飯を?奢ってあげようかな〜?なんて?思ったりしたわけですよ。どう?バイト終わったらさ、一緒にお食事しません?」
『…』
「あれ、固まっちゃったよ。そんなに嬉しかった?…まぁ瑠璃はお兄ちゃん子だもんなー!」
『あのおそ松兄さんが…』
「ん?」
『あのおそ松兄さんが奢ってくれるの!?本当に!?』
「え、そんなに珍しい!?」
『珍しいよ!!え!?いいの!?やった〜!!』
「よ、喜んでくれるのは嬉しいけど、なんか複雑…」
『じゃあ、もうちょっとでバイト終わるから待ってて!!あと10分くらいだし!!』
ちょっと、瑠璃!?なんて聞こえてくるけど、バイトが延長しないようにテキパキと掃除を再開した。
あのおそ松兄さんが、パチンコで勝ったお金をまたパチンコの軍資金としなかった時点で素晴らしいのに、さらに妹にご飯を奢ってくれるなんて。明日は槍でも降るんだろうか、などと思いながらも嬉しくてニヤニヤしながら残りのバイト時間を過ごした。