第5章 無血の花嫁(ルフィ)
ルフィと出会ってからここまで、ただ彼の勢いと魅力に押されてきてしまったけれど・・・
どうしてこんな当たり前のことを忘れていたんだろう。
ルフィは、海賊。
自分をこの島から連れ出してくれる船は、海賊船。
彼とともに島を出ようとすれば、自分は政府を裏切る“犯罪者”となる。
今朝、目覚めた時は自分がそれになろうとは思いもしなかった。
「・・・・・・・・・・・・」
すっかりと黙りこんでしまったヨシノを見て、ナミは小さくため息を吐いた。
「ルフィ、あんたが悪いのよ。どうせ、何も考えずに海に出ようって誘ったんでしょ!」
「だってコイツのこと放っておけなかったし、コイツもこの島にいたくなさそうだったからよ!」
「でも海賊と結婚するということは、この子を大きな危険にさらすことになるのよ!」
ナミの脳裏には、ゴール・D・ロジャーの妻、ポートガス・D・ルージュの存在がよぎっていた。
海賊王の子供をみごもった女性がいると知った海軍は、彼女を躍起になって探した。
そして、彼女は20カ月もの間、胎内でロジャーの息子を守り抜いた。
───ルフィも必ず、海賊王になる。
ナミはそう信じているからこそ、ルフィが“ケッコンする”という女性もルージュと同じ運命を辿るのではと心配だった。
「危険・・・? だからなんだよ」
髪をなびかせる、海から吹く強い潮風。
打ち寄せる波の動きに合わせて揺れる甲板。
船長が日に焼けた顔に、大きな笑みを浮かべた。
「それで自由になれんだったら、じゅうぶん命を賭ける理由になるだろ」
軽く言ってのけた言葉は、それまで吹きつけていた強い潮風の存在も、打ち寄せていた波の存在も、すべて忘れさせてしまうほどの威力があった。