第5章 無血の花嫁(ルフィ)
それはこの日、バオブ島に到着したばかりという、麦わら海賊団の船長。
彼は、出会ったばかりのヨシノにこう言った。
「なんかお前のこと、ほっとけねェんだ。行くぞ」
ヨシノの手を握り、海賊は純粋な笑顔を見せた。
一度でも新聞を読んだことがある人間ならば知らぬ者はいない、4億ベリーの賞金首。
ただ、目の前の男がそのモンキー・D・ルフィであると、彼自身がそう名乗ってもすぐにはピンとこなかった。
世界政府を相手に暴れた凶悪海賊にしては似つかわしくないほど、彼は小柄で痩せている。
何より、言動がまるで少年のようだった。
突然目の前に現れたルフィは、キラウィの宿命を呪うヨシノに求婚した。
「おれと一緒にいろ」
“海賊王になる”
自分のことについてはただそれだけしか語らず、
相手のことも“キラウィである”ということしか知らないまま言った。
もし、他人が同じ言葉を吐いたなら、“何を言っているんだ”とヨシノも相手にしなかっただろう。
しかし・・・
「おれがヨシノを幸せにするって決めたんだ。ししし、これが恋ってやつか」
まるで太陽のようなその笑顔に、ヨシノはどうしようもなく惹かれた。
時にそれは、一日もかからない。
“監獄”の中で呼吸することを当たり前だと思っていた、自分の生き方を変えるには。
時にそれは、一秒も必要ない。
海からやってきた男に、心を奪われるには。
ヨシノは今、差し出されたルフィの手に自分の手を重ねようとしていた。