第5章 無血の花嫁(ルフィ)
キラウィは、心を持たぬ花。
男が愛する女性に贈る花束のように美しく、
女がまとうウェディングドレスの花飾りのように華麗に。
そのダンスで恋人たちの愛を深め、恋人たちの未来を祝福する。
必要とされるのは、美しさと華やかさのみ。
必要とされなくば、ただ枯れて朽ちるのみ。
花に感情はいらない。
ただそこで咲き誇っているだけでいいのだ。
新世界に浮かぶ、美しい「バオブ島」
ここでは、キラウィと呼ばれる見目麗しい原住民が旅人を出迎える。
彼らが見せるダンスは、訪れた旅人の愛に火を灯し、恋人達を燃え盛る夜へといざなう。
舞うキラウィの手や足、腰は、人々の“本能”を高ぶらせる力があった。
キラウィが踊れば、男女は恋に落ちる。
キラウィが踊れば、男女の間に子が生まれる。
愛を誓う場として、愛の結晶を授かる場として、バオブ島は高い人気を誇った。
その一方で、この平和で愛に溢れたバオブ島が、キラウィにとっては“監獄”だということを、誰が気づけただろうか。
彼らの不思議な力を、島は“貴重な財源”とみなし、さまざまな制約を課している。
キラウィの男は、キラウィの女の身体にしか種を植え付けることができず。
キラウィの女は、キラウィの男からしか受胎することができない。
すなわち、キラウィ以外の人間との恋は、この不思議な力を持つ原住民の絶滅につながる。
「移民と恋に落ちてはいけない」
「島から出てはいけない」
この世に生を受けた瞬間からそう言い聞かせられ、子孫を残すためだけの結婚を強いられる。
それが、稀有な血を継ぐキラウィの宿命──
そんな、ある日。
バオブ島が育て、守ってきた貴重な“花”を、摘み取ろうとする一人の海賊が現れた。