第1章 小鳥の巣(リヴァイ)
エルヴィンが団長となり、長距離索敵陣形が導入されてから壁外調査での犠牲者は激減した。
それでも毎回、三割に及ぶ尊い命が失われる。
ヨシノは、巨人をいち早く発見し、全体に知らせる「索敵班」を率いることになった。
他よりも巨人との遭遇率が高く、それが奇行種だった場合は戦闘を強いられる。
致死確率が最も高い場所。
しかし、作戦企画紙を渡された時、ヨシノは高揚感を覚えた。
これは、エルヴィンに認められたという証。
自分は、同期の兵士と比べて出世できずにいた。
力量が無いと言われればそれまでだが、分隊長補佐を務めている同期もいる。
やっと自分も、一つの班を持たせてもらえるまでになった。
それが嬉しかった。
出立の日。
開門まであと数分という時、すぐ隣で待機していた同期の兵士が、時計をしきりに気にしていた。
「どうしたの?」
彼も次列・索敵班を率いる班長。
壁外調査は慣れているはずなのに、その額にはすでに大量の汗を掻いていた。
「具合でも悪いの?」
「いや・・・実は、妻が今朝、産気づいたんだ」
「え!?」
結婚したことは知っていたが、まさか子どもが出来ていたなんて。
「それで、赤ちゃんは?」
「俺が家を出た時はまだだった。だけど、もう産まれている頃だと思う」
「じゃあ、この遠征から帰ってきたら、赤ちゃんの顔が見られるんだね」
「ああ、楽しみだ」
興奮気味に頬を上気させる同期。
妻のお産に付き添ってやりたかっただろうが、調査兵として壁外調査を投げ出すわけにはいかない。
「じゃあ・・・絶対に帰ってこなきゃね」
腰に付けた立体機動装置がカツンと音を鳴らす。
「生まれてすぐに父親がいないのは、可哀想でしょ」
その子どもの父は、自由を背に巨人と戦う兵士。
きっと誇りに思ってくれるだろう。
「ああ・・・お前も死ぬなよ、ヨシノ」
必ず、生きて。
このトロスト区に帰ってこよう。
開門を知らせる鐘が鳴り響く。
重厚な門が吊り上げられるとともに、少しずつ姿を現す“向こう”の景色。
巨人が支配する世界へと、気持ちを奮い立たせる。
初めて一個の班を任された。
誰一人として死なせない。
「進め!!」
エルヴィンの号令とともに。
兵士達は一斉に手綱を引いた。