第1章 小鳥の巣(リヴァイ)
ウォール・マリア陥落から三年。
トロスト区からシガンシナ区への補給ルート構築のため、派遣される調査兵団。
訓練兵時代に成績トップだった者は、ほぼ例外なく憲兵団を選択し、調査兵となる者は必ずしも優秀とは限らない。
しかし、度重なる遠征で、兵士達は自然と巨人と戦う最も有効な手段を体得していく。
結果、研ぎ澄まされていく実力、判断力、精神。
「班長、右側後方に巨人を確認しました!」
「赤の煙弾をお願い!」
巨人発見を隊全体に知らせるための、赤い信煙弾を空に向かって放つ。
すると、100メートルほど内側を走る同期の班からも煙弾が上がった。
「なんとか振り切れそうですね」
「うん」
幸い、発見した巨人は脚が遅いタイプのようだ。
人間を見かけて大きな口を開けながら追いかけようとしていたが、すでに遥か後方に置いてけぼりとなっている。
良かった、戦闘を避けることができた。
自分の肩には、班員二人の命がかかっている。
彼らはなるべく危険な目に遭わせたくない。
ヨシノは真っ直ぐと前方を見据え、司令部から発射される進行方向を告げる信煙弾を待った。
その時。
ドォン・・・
ドォン・・・
地響きが鳴る。
先ほど発見した巨人とは、明らかに違う規則性の無い足音。
心臓がザワリとした。
規則性が無いということは、接近している巨人の行動予測が立たないということ。
それはつまり・・・
「奇行種です!!」
一人が金切声を上げた。
その瞬間に走る、緊張と恐怖。
振り返ると、14メートル級の奇行種が、両手をぶらつかせながらこちらに向かって走っていた。
無表情で、その瞳には人間が映っていないようだ。
それなのに、真っ直ぐとこちらへやって来る。
「黒の煙弾を!!」
まずは、奇行種の接近を周囲に知らせなくては。
それから腹を括る。
あの歩行速度では、荷馬車を引く馬の方が遅いだろう。
逃げ切ることはできない。
行動予測が立たない分、何をしでかすか分からない恐ろしさがある。
ここで足を止め、戦わなければ。
だが、それは巨人に殺されるリスク以上に、二度と本隊と合流できない危険があった。