第4章 紫陽花(三井)
「それにしても、病院から直接私の所に連絡が来たのには驚いた。三井、私を緊急連絡先にでも指定していたの?」
「あー、それなんだけど。よくわかんねーんだよ」
さっき、目を覚ました時、看護師からこう言われた。
“ご婚約者様に連絡しておきましたから”
「オレたちが婚約してるってことを、どうやって知ったんだろーな」
「さあ」
二人して首を傾げた、その時だった。
コンコンとドアをノックする音が響き、ヨシノは慌ててベッドから飛び降りる。
「また熱でも測るのか? はーい、どうぞ」
ノックしたのが看護師だと思い込んでいた三井が面倒臭そうに返事をすると、ドアを開けたのは思ってもいなかった人物だった。
「失礼する」
入ってきたのは、大阪へ向かったはずの父。
その後ろには、菓子折りを持った母が立っていた。
「モリスさん・・・!」
「お父さん!」
なぜ、ここに・・・?!と、二人の脳裏に疑問符が浮かび上がった。
父は複雑な顔でしばらく三井を見つめていたが、一歩病室に入るなり、深々と頭を下げる。
「すまなかった。私が君を突き飛ばしたせいで、酷いケガを負わせてしまった」
「そんな、これはオレが勝手にすっ転んだだけですから! モリスさんのせいじゃありません」
すると、父は困惑したように三井を見つめた。
「君は・・・ずっとそう言っていたよ」
頭から転げ落ち、階下で倒れている三井に駆け寄った時、彼の意識はすでに朦朧としていた。
誰かが駅員を呼び、救急隊員が到着するまでのわずかな時間、三井はうわ言のように繰り返した。
“オレが一人でコケました・・・”
“誰のせいでもありません・・・オレのせいです・・・”
だが、誰の目から見ても、父と三井が口論していたのは明らかだった。
“ヨシノ・・・ヨシノ・・・”
何度も娘の名前を呼ぶ三井に、何を思ったのだろうか。
救急隊員が駆け付けると、父はこういった。