第4章 紫陽花(三井)
「やっぱオレ、お前を幸せしてーんだわ」
高校一年の時のように、焦って物事を進めないことにした。
「オレのコトをどんな風に言おうと、お前にどれほど理想や価値観を押し付けようと、あの親父はオレが惚れた女を育てた男だ」
バスケ部を潰そうとした自分を許してくれた仲間のように、自分もヨシノの父親を受け入れる。
「最後まで希望は捨てねーぞ」
涙を流すヨシノの頬を包みながら、優しく微笑む。
「だから、もう一度やり直しだ。オレとお前、成長したらもう一度出会って、オレは高三の時みてーにお前をまた口説き落とす。覚悟しろよ」
「ふふ・・・じゃあ、私のことを“まあまあ可愛い”って言ってくれるところから、また始まるの? 言っておくけど、最初はそれムカついていたから」
「え? マジ?!」
驚いている三井の唇に、ヨシノはクスクスと笑いながらキスをした。
「油断しないでよ。もしかしたら、三井よりもずっとイケメンと出会うかもしれない。うちのお父さんの人脈を甘くみないでよ」
すると、高校時代は優れたスリーポイントシューターだった三井が不敵に微笑んだ。
「バスケ用語にさ、“ゾーンに入る”って言葉があるの、分かる? ソイツに入ると、なんだか分かんねーけど、絶対にシュートを外す気になんねーの」
「・・・・・・・・・・・・」
三井は昔を思い出し、懐かしそうに瞳を揺らした。
「インハイで山王に当たった時、正直、コートでゲロ吐きそうになるほど限界だった。けど、宮城がオレのためにボールを回してくれて、赤木がオレのためにスクリーンをかけてくれて、桜木がオレのためにリバウンドを取ってくれたから・・・シュートを打ち続けることができた」
そして、恐ろしい確率で決まっていった長距離砲。
山王戦で三井が樹立した1試合でのスリーポイント成功数は、インターハイ記録となって今も語り継がれている。