第4章 紫陽花(三井)
「オレさ・・・痛いくらい分かるんだよ」
ヨシノの手を擦りながら、力無く微笑む。
「大事なモンを捨てて、ラクな道へ逃げることが、どれだけツライか・・・」
「三井・・・」
高校一年の時。
練習中に負ったひざのケガは、ちゃんと直せば復帰できた。
でも、焦って練習に戻り、もっと深刻な事態を招く結果となった。
楽しそうにバスケットボールを追いかける仲間や、恩師である安西先生から逃げ、不良の道を進んだ三井。
バスケがしたい。
純粋な気持ちを押し殺し、周囲の人間を傷つけ続けた二年間。
「その間、オレはお袋をずいぶん悲しませた。けど、それでもお袋はオレがバスケを再開すると、応援してくれた」
母親の涙に込められた、深い深い愛情。
「バスケ部をブッ潰そうとしたオレを、仲間は受け入れてくれた」
何事も無かったかのようにチームに戻ることを許し、ボールを回してくれた友情。
「恩師に背を向けたオレを、安西先生は変わらずに導いてくれた」
最後まで希望を捨てちゃいかん・・・
あきらめたらそこで試合終了だよ。
「あの時のことを思えばこそ・・・オレはお前と別れようって決めた」
静かすぎる病室に響く、二つの鼓動。
ドクン・・・ドクン・・・と運命を悟るように脈打っている。
「お前との婚約を解消して、ただの他人同士に戻って・・大学だろーが、大企業だろーが入ってやる。そして、お前の親父が認める男になる」
それを伝えるため、横浜駅へと走っていた。