第4章 紫陽花(三井)
ヨシノとの結婚を許してもらえなかったその日から、三井はただひたすら考えていた。
ヨシノを幸せにしたい。
それがたとえ、“どのような形”であっても。
そして、一つの答えにたどり着いた。
「オレはどうしてももう一度、お前の親父と話をしなければいけねーって思った」
そして、ヨシノの実家に行ったら、今日から出張で大阪に行くと母親から聞いた。
今から横浜駅に行けば新幹線に間に合うだろう、とも。
すぐに横浜駅に向かった三井は、改札口のところで父親の姿を見つけた。
“モリスさん! もう一度だけ、オレの話を聞いてください!!”
“何だね、君は! しつこいぞ”
“オレはただヨシノを幸せにしたいんです! 10分・・・いや、5分でいいから、どうか話を聞いてください!!”
“貴様の戯言に耳を貸すほど、私は暇ではない!”
食い下がろうとする三井を無視し、ホームへと上がるエスカレーターに乗る父。
たまたま二人の間に他人が割り込んだため、三井は隣接している階段を駆け上がった。
いくらバスケで鍛えているとはいえ、もともと持久力がそこまでない三井は、最後の一段を踏む頃には完全に息が上がっていた。
しかし、なんとか父がエスカレーターから降りる一瞬前にホームにたどり着く。
“しつこいな、君は!”
“どうか、話だけでも!!”
ホーム上には少なくない人の数があった。
身なりの良い初老の男性に攻寄る、汚い作業着姿の男。
誰もが不審者を見る目つきで三井を見ていた。
“オレはただ、ヨシノに笑顔でいてもらいたいだけなんです!”
“・・・・・・・・・・・・”
“もし、モリスさんに結婚を認めてもらえないその時は───”
しかし、結婚という言葉が父親の逆鱗に触れたようだ。
目の前で深く頭を下げていた三井を、忌々しそうに軽く突き飛ばした。
そのせいで、階段を猛ダッシュし心拍数が上がりきった状態で頭を下げていた三井に強い眩暈が襲う。
フラフラと後ろによろめくと、ホームから階段の最下段へと転げ落ちていった。
きゃあ!!という女性の悲鳴が聞こえた・・・と思ったのを最後に、三井の意識はそこで途切れた。