第4章 紫陽花(三井)
いつもより信号が赤ばっかりなような気がする。
制限速度はもっと速くなかったか?
いたって安全運転な運転手に文句を言う筋合いはないはずなのに、苛立ちを抑えるのに精いっぱいだ。
タクシーが北村総合病院の玄関口に着くころには、すでに心臓がはちきれそうだった。
「すいません! こちらに三井寿が運ばれたとお伺いしたのですがっ」
血相を変えながら飛び込んできたヨシノを見て、受付の人は宥めるような笑顔を見せながら、エレベーターの方を指さした。
「先ほど一般病棟に移られました。504号室です」
「あ、ありがとうございます!!」
「まずはこちらにお名前を記入いただけますか?」
差し出された名簿に名前を走り書きし、バッジを受け取る。
一般病棟に移った・・・ということは、命に別状はないということか。
いくらか安堵したものの、まだ不安で仕方がない。
焦る気持ちを抑えながらエレベーターで5階に上がり、病室のドアをノックした。
「はい、どーぞ」
ドアを隔てた向こうから聞こえる、一週間ぶりの三井の声。
安心しすぎて涙が流れていることすら気づかぬまま、ノブを回す。
「三井・・・!」
「ヨシノ! お前、どーしたその顔?」
病室のベッドに寝ている三井は、額に包帯が巻かれ、青い顔をしていた。
でも、上半身を起こし、こちらを見て大きな目を見開いている。
「どうしたはこっちのセリフでしょ! いったい、どうしたの!」
「いや・・・とにかくおめー・・・アレだ、まずは顔を拭け」
「はあ?」
「マスカラ流れてヒドイことになってんぞ」
人の気も知らないでクスクスと笑っている三井に腹が立ったが、鏡を見ると確かに目の下が真っ黒だ。
とりあえず乱暴にティッシュで拭き、もう一度三井に向き直る。