第4章 紫陽花(三井)
この一週間。
仕事中だろうが、入浴中だろうが、携帯電話に着信が入るたび、何を置いてもまず画面をチェックした。
しかし、発信者の名前を見るたびに落胆する。
母親が数十回。
三井が両親に挨拶することを知っている友人から数回。
木暮から一回。
どれも出ることができず、留守番電話に切り替わるまでただ携帯電話を握りしめていた。
結局、三井からの着信は一度としてなかった。
ある日、仕事が終わって会社から出ようとしていたヨシノの携帯電話が鳴った。
画面に表示されているのは、知らない固定電話の番号。
妙な胸騒ぎがして、通話ボタンを押した。
「もしもし」
「こちら北村総合病院ですが、モリスヨシノさんの携帯電話でよろしいでしょうか」
北村総合病院・・・?
この辺では一番大きな病院だ。
しかし、まったく心当たりがない。
「はい、モリスは私ですが」
「三井寿さんのことでご連絡いたしました」
「三井・・・? 三井に何かあったんですか?」
電話の向こうの女性は、おそらく救命救急センターの看護師なのだろう。
淡々とした口調からは冷静沈着さが伺える。
「横浜駅の階段で転倒し、こちらに搬送されております」
「転倒・・・?! だ、大丈夫なんですか?」
「頭などを打って、現在は意識のない状態です。これ以上は電話ではお話できませんので、当病院へ来ていただけないでしょうか」
「分かりました、今すぐ行きます!」
震える手で通話を切ると、腕時計を見た。