• テキストサイズ

【短編集】夢工房。

第4章 紫陽花(三井)




「三井・・・三井ってば!」

海沿いの道を一人でスタスタと歩く三井の足がとても速い。

こんな当たり前のことに今更気が付いたのは、いつも身長差があるヨシノに合わせ、歩くスピードを考えてくれていたということだ。

「待ってよ、先に行かないで!」

なんとか必死に手をのばし、ワイシャツの背中を掴んだ。
そこは汗でびっしょりと濡れていて、三井がどれだけ緊張を感じていたのかが分かり、悲しくなった。

すると、三井の長い脚が止まる。


「今日さ・・・ウチに泊まる約束だったけど・・・キャンセルしてくんね?」

「え?」


でも、腕によりをかけてご馳走を作ろうと、三井のアパートの小さな冷蔵庫には、たくさんの食材をつめてある。
婚約祝いとして二人で食べるはずだったケーキも買ってある。

それなのに・・・


「お父さんの言ったことなら、気にしないで! あんな人、私の父親じゃない!!」

「だから、そういうコトは言うなっつってんだろ」

「でも! 私は三井と結婚できるなら、親と縁切ってもいいと思っているんだからね!」

「それはダメだ!!」


じゃあ・・・どうするというの?
無かったことにするというの?

貴方が私のために選んでくれた指輪も、
貴方が寝ずに考えてくれたプロポーズの言葉も、

全部・・・全部、無かったことにするというの?


「おめーの親父が反対してる以上、オレは結婚するつもりはねーから」

「なにそれ・・・私の親がなんて言っていたって、三井のお母さんは賛成してくれてるんだから、私はそれでじゅうぶん幸せだよ」

「ちげーんだって・・・」

「何が違うの? ちゃんと言ってくれないと分からない!」

「・・・・・・・・・」

人目もはばからず大きな声をあげるヨシノから、三井は困ったように目を逸らした。



/ 117ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp