第4章 紫陽花(三井)
「親に対してなんという口の利き方だ! 私の判断が正しかったと分かる時が必ず来る。こうして反対していることに感謝しろ!」
この人と同じ血が自分にも流れているなんて、考えただけでも死にたくなる。
「感謝・・・? それは絶対にない」
「なんだと?」
「私はお父さんがなんて言おうと、三井と結婚する。許してくれないなら、親子の縁を───」
「ヨシノ!!!」
ヨシノの名前を怒鳴り、言葉を遮ったのは父ではなく。
それまで項垂れていた三井だった。
「それ以上、言うんじゃねー」
「三井・・・?」
「いいか。今、口から出かけた“その言葉”は、絶対に言うんじゃねーぞ」
三井は床の上に正座をしながら、ヨシノに強い瞳を向けていた。
その剣幕に、さすがの父も黙る。
口論を止めた三井はノロノロと立ち上がると、父と母に向かって頭を下げた。
「・・・すんませんでした」
新調したスーツも、
散髪した頭も、
赤木や木暮と一緒に考え、何度も練習した言葉も、
全部、無駄になってしまった。
「モリスさんに認めてもらえない以上、オレはヨシノと結婚するつもりはないです」
「み・・・つい・・・? 何言って・・・」
「お邪魔しました」
「ちょっと・・・!」
三井はそばに置いてあったジャケットを掴むと、もう一度ヨシノの両親に向かって一礼をする。
そして、一人でスタスタと玄関の方へ歩いていってしまった。
「三井、ちょっと待ってよ!」
靴を履いている三井の表情が見えない。
きっと怒っているのだろう。
人として貶されたも同然なのだから・・・
ヨシノも慌ててリビングに戻ってハンドバッグを掴んだ。
「ヨシノ、今日はうちに泊まりなさい! 話がある」
そう叫ぶ父を無視し、先に外へ出て行ってしまった三井の後を追う。
嫌だ・・・
“結婚するつもりはない”ってどういうこと?
お父さんがあんな人だから、娘の私も同じ価値観を持っていると思った?
私は、三井が高卒だろうが、薄給だろうが、気にしない。
それよりも、ずっと素晴らしいものを持っている人だって知っている。
初めてまともに言葉を交わした、あの日からずっと───