第4章 紫陽花(三井)
三井と初めて言葉を交わしたのは、高校二年の冬。
その頃の三井はすでに不良だった。
うざったそうに揺らす長髪、何かに“飢えて”いるような鋭い目。
たまに学校に姿を見せたとしても、堀田徳男などガラの悪そうな同級生とつるみ、気に入らない生徒がいれば暴力を振るう。
彼のことは“嫌い”ではなく、“大嫌い”だった。
一年の時に同じクラスだった木暮からは、三井がグレたのはバスケットができなくなったのが理由と聞いたが、なんて弱い人間なんだろうとしか思わなかった。
どのような理由があろうと、不良仲間を従えて虚勢を張るなんてカッコ悪い人のすることで、同情などできなかった。
そんなある日のこと。
ヨシノは学校帰りにコンビニへ寄った。
そこは学生や地元のサーファーだけでなく、ガラの悪い学生の堪り場となっている店。
すでに辺りは暗く、一瞬迷いはしたが、そのチェーンのコンビニでしか売っていない期間限定のお菓子をどうしても買いたくて、ヨシノの足はその店に向かっていた。
海沿いの道は、ことさら強い風が吹きつける。
特に夕方となれば気温は一気に下がり、潮風で髪がグチャグチャになりながらやっとたどり着いたコンビニの入り口には、数名の不良がヤンキー座りでたむろしていた。
“嫌だな”と思ったのは、言うまでもないこと。
じろじろと見られていることには気づいていたが、目を合わせないようにして自動ドアが開くのを待っていた、その時。
「君、ショーホクの子?」
根元から黒い毛が数センチほど伸びた金髪の高校生が声をかけてきた。
学ランを着ているが、湘北の制服ではない。
身長はさほど大きくないものの、煙草と強い香水の匂いがした。