第3章 はじめの一歩(及川・岩泉)
「あ・・・そうか・・・」
“今の俺がいるのは、岩ちゃんのおかげなんだ”
“俺の才能や実力がもし、この先も通用するなら。それは“岩ちゃんも戦っている”ということだから”
さっきの及川の言葉の意味・・・
「今、分かった」
自分の才能や実力を引き出してくれたのは、岩泉。
彼がいなければ、今の及川はいない。
及川は、岩泉と“一緒に”戦っているんだ。
「おい、マヌケな顔してんぞ」
「む、どの口が言ってるのかな」
憎まれ口を叩いた罰、とばかりに岩泉のとがった唇を引っ張ると、大きなネコ目を尖らせながら見上げてくる。
うん、この目は“いつもの岩泉”だ。
それがとても嬉しい。
「そうそう、及川からの伝言!」
「ん?」
俺は行けるところまで行く。
岩ちゃんは指を咥えながら見てろ。
「クッソムカつく野郎だな」
でも、その笑顔はとても嬉しそうで。
「俺みてーに中途半端なところで立ち止まったりしたら、ただじゃおかねえ」
北川第一から青葉城西
青葉城西から全国区
そして、子どもの頃から憧れ続けた、夢の舞台へ。
「俺が開花させた才能だ。無駄にすんじゃねえぞ、クソ及川」
閉じ忘れたカーテンの間から見える、茜色の空。
きっと今頃、タクシーに乗っている及川も、窓から見上げてこう言っているだろう。
「任せて、岩ちゃん」
岩泉のバレーボール選手としての命は終わった。
だが、岩泉のバレーボール選手としての軌跡はこの先も続いていく。
世界最高峰に立つ、セッターの指が架けるトスのアーチの先に───