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【短編集】夢工房。

第3章 はじめの一歩(及川・岩泉)




「ヨシノ」

大きく深呼吸を一つ。
そして、勝気な瞳をヨシノに向ける。

「及川の母ちゃんが作った肉じゃがを食いたい」

「いいけど、もうすぐ夕食なんじゃない?」

「ああ。けど、あんな味気ない飯だけじゃ腹は膨れねえべ」


“腹・・・すかねぇもんなんだな・・・”


絶望的な顔で言った、さっきの岩泉とは違う。

ニッと笑うその顔は、夢中でバレーボールを追いかけ、打ち続けていた高校生の頃そのもの。


「すげえ腹が減った」


包帯が取れたらリハビリだ。
俺だって、立ち止まっている暇はない。


「・・・うん! 今、温めてくる!」


いっぱい食べて、また頑張ろうね。



ホクホクのジャガイモを頬張る岩泉。
大きなタッパーは瞬く間に空っぽになった。

「これでスタートラインに立つことができるね」

「スタートライン?」

「うん。新しい道へのスタートライン」


すると、岩泉は青城の人間なら誰もが知る、頼もしい笑顔を浮かべた。


「ああ・・・お前が引いてくれたんだ。今度は絶対に途中で諦めねえぞ」


「さぁ、“はじめ”の一歩! だね」



君が次に立つ“コート”はいったいどんなところだろう。

高い壁がそびえているかもしれない。
強い向かい風が吹いているかもしれない。

でも、私は応援しているよ。

そしてきっと、及川も・・・



「負けるなよ」



岩泉から及川へ。
及川から岩泉へ。

そして、ヨシノから岩泉と及川へ。


3月も終わりの、ある日の夕暮れ。

この別れの季節に、3人は同時に同じ言葉を発し、互いの未来に願いを込めた。






第3章 『はじめの一歩』 Fin.






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