第3章 はじめの一歩(及川・岩泉)
「ありがとね、ヨシノ・・・」
優しい色をした夕日に染まる、赤い頬。
岩泉が選手生命に関わるケガを負ったと聞いた時、相棒を失った喪失感が胸の奥に沸き上がった。
きっと、この喪失感はずっと消えないものだと思う。
自分のバレーボール選手としての寿命が消える、その日まで。
でも。
“及川・・・!!”
自分の顔を見た瞬間、子供のように泣いたヨシノに、
相棒を必死に支えようとしてくれているヨシノに、救われた。
スポーツをやっている人間にとって、選手生命の終わりは恐怖でしかない。
その時を一緒に耐えてくれる人がいると思えば、少しはその恐怖も影をひそめるような気がする。
ヨシノの言う通り、先のことなんて分からない。
確かなことがあるとすれば・・・
今、自分の手を包んでくれている目の前の人が、とても大切だということ。
「本当にありがとう」
及川はいつの日か、日本代表の司令塔として“龍神”のごとく世界の頂点へ昇りつめるだろう。
しかし、それはまだ少し先の話。
「仕方ないから、それまでもうしばらく岩ちゃんにヨシノを独り占めさせといてあげるか」
「ふふ、何言ってんの」
岩泉の道。
及川の道。
ヨシノの道。
今は交わることのない、平行線。
この先も交わるとは限らない。
それでも、この赤い夕日に照らされた3本の道は、真っ直ぐと迷いなく伸びている。
暗く寒い夜が待ち受けているかもしれない。
しかし、必ず夜明けは来る。
その時はきっと、太陽の光でキラキラと輝いているだろう。
「頑張ってね、及川」
「うん。ヨシノも・・・そして、岩ちゃんも」
だから、恐れずに歩もう。
迷わずに進もう。
及川とヨシノは真っ直ぐと互いの瞳を見つめ、そして微笑んだ。