第1章 小鳥の巣(リヴァイ)
ほどなくして戻ってきたリヴァイの腰には、立体機動装置が装着されていた。
「おい、その雛を貸せ」
きちんとアイロンがかけられたハンカチを差し出され、その中に雛を置く。
リヴァイは雛が生きていることを確認すると、優しく包んで懐に入れた。
「あの・・・兵長・・・」
ヨシノが上官の行動がまだ信じられないでいるうちに、パシュッとワイヤーが飛び出す。
そして、兵舎の壁にアンカーが突き刺さった。
「・・・・・・・・・」
パラパラと落ちてくる壁の破片を見ながら、ヨシノは不安を覚えた。
リヴァイは躊躇なく兵舎の壁に傷をつけているが、本当に咎められたりはしないだろうか。
そもそも、リヴァイにだって立体機動装置使用の許可は必要なはず。
守るべきルールは遵守する彼が、まさかこうして雛を助けるためだけにそれを破ろうとは・・・
しかし、空高く舞い上がるリヴァイに、胸が高鳴ったのも事実。
リヴァイ兵長は、口は悪いけれど本当は優しい人なんだ・・・
ヨシノは巣の前でうまくバランスを取り、懐から雛を取り出している兵士長を見上げた。
運良く、親鳥がいないようだ。
リヴァイは雛を巣に戻してすぐに降りてくると、ヨシノを横目で見つめる。
「これで文句はねぇな?」
それは、たった今、小さな命を救ってきた人間のものとは思えないほど冷たい瞳だった。
「お前が遠慮なしにベタベタと触った雛を、親がこれまでと同じように育てる保証はどこにもねぇぞ」
「・・・・・・・・・・・・」
「巣立つべくして巣から出たのかもしれない。俺達のしたことは、自然の摂理に反することだったかもしれない」
「そ・・・それは・・・」
リヴァイの言う通りだ。
もし、人間に触られている雛を親鳥が見ていたら、警戒して育てることを放棄するかもしれない。
もしかしたら、巣立ちの邪魔をしてしまったかもしれない。
ただ、“雛が可哀想”という気持ちだけで、雛のことを本当に考えていなかった。