第1章 小鳥の巣(リヴァイ)
「で、ソイツをどうするつもりだ」
「なんとか巣に帰してあげたいと思っているのですが、この高さなので・・・」
ヨシノは困り果てた顔で屋根を見上げた。
作戦会議室は四階にある。
たとえ一番長い梯子をかけても無理だろう。
窓から手を伸ばしても届きそうにない。
「自然の摂理だ。ここで死ぬのがソイツの運命だったんだろう」
淡々と言ったリヴァイに、ヨシノは唇を噛みしめると、上官に対してとは思えないような目を向けた。
「こんなに小さな命が、必死に生きようと呼吸しているんですよ。心ある人間ならば、助けてあげたいと思うのは当然でしょう」
その言葉に、リヴァイは顎を上げてヨシノを見つめた。
・・・この瞳だ。
リヴァイを恐れぬ、この純粋さ。
調査兵団トップの実力者であり、国の権力者を敬うことすらしない兵士長を、恐れる者は多い。
しかし、ヨシノはそんな彼に対しても、自身の感情をむき出しにする。
そう。
彼女は、“子ども”なのだ。
「・・・・・・・・・・・・」
「す、すみません・・・」
さすがに口が過ぎたと思ったのだろう。
黙り込んだリヴァイを見て、ヨシノは申し訳なさそうに頭を下げた。
「何故、謝る」
不思議なことに、リヴァイは一度としてその幼稚さを疎ましいと思ったことは無かった。
この世界の“自然の摂理”を知らず、無邪気に笑う彼女。
その笑顔を守りたいとすら思う。
「・・・・・・・・・・・・」
リヴァイはしばらく黙っていたが、急にヨシノに背を向けた。
「あ、あの・・・!」
やはり気を悪くしたのかもしれない。
まるでリヴァイが心無い人間のような言い草だったのだから。
再び謝罪の言葉を言おうとした時だった。
「ここで待ってろ。今、立体機動装置を持ってくる」
「え・・・?」
立体機動装置は、巨人との戦闘時、もしくは非常時でなければ、許可なしに使用することを禁じられている。
まさか、雛を巣に戻すためだけに使おうというのか。
「でも、許可が・・・」
「お前でなく、俺が使うなら許可は必要ない」
兵士長はそれだけを言い残し、呆気に取られているヨシノを残して、武器保管倉庫へと去っていった。