第3章 はじめの一歩(及川・岩泉)
その笑顔は、皮肉を言う時のものでも、憎まれ口を叩く時のものでもなかった。
「本人が会いたくないって言ってるところに俺が行ったら、タンコブの一つじゃ済まなそう」
「そんなことないよ!」
「岩ちゃんは、一人で答えを出せる男なんだ。昔からね・・・」
スパイカーとして、牛島に敗北を認めることのできる強さ。
自慢の相棒にも、負けを認めさせることのできる強さ。
「俺もビックリするほど芯の強い奴だよ」
“目の前の相手さえ見えてない奴が、その先に居る相手を倒せるもんかよ”
常に目の前にある逆境に、真っ向から挑んでいった岩泉。
「岩ちゃんは必ず答えを見つけ、壁を乗り越える」
相棒としてやるべきことは、その強さを信じることだ。
「そもそも誰かを励ますのとか得意じゃないし」
「・・・・・・・・・・・・」
「岩ちゃんだって、死んでも俺から励まされたくないと思う」
先ほどとは全く違う、軽いノリ。
しかし、ヨシノは気が重かった。
「でも、私はどうして励ましてあげればいいのか分からない・・・あんな弱いはじめは見ていられないよ」
「ヨシノ・・・」
「私はバレーを知らないし・・・及川のようにずっと一緒にいたわけでもないし・・・」
すると及川は突然、そばに立っていたヨシノを隣の椅子に座らせた。
そしてテーブルの上で二人の手を重ね合わせる。
「お、及川・・・?」
長身で華やかだから、ちょっとした動作でも周囲から注目を浴びてしまう。
肩が触れ合うほどの近距離と、手を重ねられた驚きで、ヨシノの心臓はすでに張り裂けそうだった。
「もし、俺が岩ちゃんと同じ状況になったら・・・」
テーブルの上に置いた、ヨシノの手。
その上に重なる、二回りほど大きな手。
「そばにいて欲しい人には、バレーの知識を求めない」
長いまつげに縁どられた瞳が、真っ直ぐとヨシノの横顔を見つめる。
その目尻が少しだけ、赤い。