第3章 はじめの一歩(及川・岩泉)
「俺のトスを打ってたから、岩ちゃんはエースでいられたんだよ。俺が岩ちゃんの力を引き出してやってたんだから、当然だね!」
その自信、いったいどこからくるものなのだろうか。
でも、“根拠のない自信”とも違う。
これは、及川と岩泉にしか分からないことだ。
「だから! エースとしての岩ちゃんは、俺が育てたといっても過言じゃないね!」
「いや・・・それはどうだろう」
「とにかく! 岩ちゃんは及川さんに合わせる顔がないんでしょ。俺とずっとコンビ組んでれば、もっと長くバレーをやっていられたのに。こんな結果になっちゃってさ」
「・・・はじめの代わりにその顔、殴ってあげようか?」
「でも」
へラヘラした憎たらしい顔が、一瞬にして変わった。
昔を懐かしむように、寂しそうな笑顔を見せる。
その変化にヨシノの胸がトクンと音を立てた。
「それは、俺にとっても同じことだよ」
心に直接響く、低い声。
この人は時々、とても“強い”言葉を発する。
無意識なのかもしれないが、それを聞いた人間はまるで心臓に杭を打たれたように、この人の瞳から目をそらせなくなる。
「今の俺がいるのは、岩ちゃんのおかげなんだ」
ああ、これだ・・・とヨシノは思った。
なんで自分がこの男に、ここまで心惹かれるのか。
「岩ちゃんがいなければ、俺のバレー人生は中学で終わっていたかもしれないね」
「なにそれ・・・?」
「部活内で暴力沙汰を起こしそうになったんだよ。後輩を殴りそうになってさ、ギリギリのところで止めてくれたのは岩ちゃんだった」
「及川が・・・暴力・・・?」
及川は他人を挑発こそすれ、絶対に手は出さない。
どんなに友達から殴られたり蹴られたりしても、決してやり返すことはなかった。
その及川が人を殴ろうとするなんて、よっぽどのことがあったんだろう。
「キャプテンだったから、下手したら退部だったよ」
“バレーは6人で強い方が強い”
あの時の岩泉の言葉が、及川を変えた。