第3章 はじめの一歩(及川・岩泉)
「そういえば、なんで及川がここにいるの?」
「ん~?」
さすがにロビーでいつまでも立ち話をするわけにいかず、病院内にあるカフェに移動した。
こうして及川と二人でコーヒーを啜るのは、我ながらおかしな光景だと思う。
「全日本の代表合宿が4月にあるんだけどさ、それに向けた新入りだけの練習がトレセンであって。その時にウシワカちゃんから聞いたんだよ」
“岩泉が故障したらしいな。大丈夫なのか?”
その時のことを思い出したのか、思いっきり不機嫌そうに頬を膨らませる。
「幼馴染のことを、全っっ然関係ないヤツから聞く、この悔しさ分かる?!」
「・・・まあ・・・悔しいだろうね」
「ウシワカだって、たまたま瀬見君から聞いただけらしいのに、なにあの“お前そんなことも知らなかったの?”って顔! 腹立つ!」
きっと牛島はそんなことなど露程も思っていなかったのだろうが、及川はコーヒーが入った紙コップを今にも握りつぶしそうな勢いだ。
「俺と岩ちゃんの超絶信頼関係をけなされた気分だよ! よりによってウシワカにさ!」
「及川、本当に牛島君を目の敵にしているよね・・・それでチームメイトとしてやってけるの?」
「そりゃ代表の時は割り切るよ。けど、“実は青城からハブられてるんじゃないか”疑惑まで出て、余計に悔しい」
「違うよっ、マッキーや松川君が及川に内緒にしてたのは、」
「分かってるよ! どーせ、岩ちゃんが“及川には連絡するな”ってみんなに言ったんでしょ。残念でした、来ちゃったもんね」
気を取り直すためかコーヒーを口に含み、薄茶色の瞳をヨシノに向ける。
「バレーができなくなった岩ちゃんが考えそうなことくらい分かる。ケガのことだって、俺とずっと一緒にバレーやってたからだって言ってるんじゃない」
「それは・・・」
気まずそうに俯くヨシノを見て、それが図星だとを悟る。
すると、及川は少しだけ寂しそうに微笑んだ。
「岩ちゃんは間違っていないよ。俺は常に“スパイカーが一番欲しいトス”を考えていた。そのおかげで今、このジャージを着ることができているんだと思う」
胸元に刺繍された日の丸と、“JAPAN”の文字。