第1章 小鳥の巣(リヴァイ)
壁外調査の数日前から、兵団は異様な空気で満たされる。
中途半端な覚悟しか決めていない人間にとっては、死刑宣告を受けたようなものだろう。
壁の外の世界への期待を膨らませているのは、ハンジのような変人か、一度も外門をくぐったことのない新兵くらいだ。
そんな中、中庭に面した外廊下を歩いていたリヴァイは、草の陰で顔を埋めるようにしゃがんでいる兵士がいることに気が付いた。
死に怯え、泣いているのか。
面倒臭ぇな。
普段なら声をかけずに放っておくが、その背中が“彼女”のものだと気づいた瞬間、両足は自然とそちらの方に向いていた。
「おい、何してるクソガキ」
背後からの突然の声に、高さ50センチほどの茂みの間でうずくまっていた背中がビクンと震える。
「へ、兵長!」
泣いているのかと思いきや、振り返ったその瞳には涙が流れた形跡がない。
リヴァイは少し安堵を覚えた。
ヨシノ・モリス。
この世界でたった一人、“閉じ込めておきたい”と思う人間。
ヨシノは慌てて立ち上がったものの、その両手に何かを抱えているせいで敬礼をすることができなかった。
「その手に持っているものは?」
「あの・・・」
口をもごもごとさせるだけのヨシノに、リヴァイは眉をひそめた。
明らかに、右手と左手で手毬のようなものを包んでいる。
「俺に言えねぇようなものを隠しているのか」
「ち、違います!」
ヨシノは躊躇いながら、しっかりと合わせていた両手を開いた。
すると中には、羽すら生え揃っていない雛鳥が震えていた。
「これは・・・」
「ここで見つけました。あそこの巣から落ちてしまったようです」
「・・・・・・・・・・・・」
指さす先には、作戦会議室。
そうか、あの巣から落ちたのか・・・
卵が孵っていたことには気が付かなかった。
だから、最近、やたらと小鳥の鳴き声がしていたのか。
リヴァイは、今にも壊れそうなほどの小さな命を見つめた。