• テキストサイズ

【短編集】夢工房。

第3章 はじめの一歩(及川・岩泉)




厚い胸筋が張った胸に顔を押し当てられ、ヨシノは心臓が飛び出そうなった。


「・・・はじめッ、いきなりなに」
「悪い」

口では謝っているのに、離してくれる気配がない。

「重いでしょ、縫合した場所から血がでたらどうするの!」
「・・・・・・・・・・・・」

たしかに、ヨシノの体重が少しかかるだけで、肩はズキズキと痛むし、ひじもビキンと何か切れたような感じがする。
でも、かまってなどいられなかった。


「今のお前の顔、見てらんねえしよ・・・」


それに・・・


「今の俺の顔も、お前に見られたくねえ」


だけど、そばにいて欲しい。
ほんの数秒だけでいいから、どうか我儘を聞いて欲しい。


「・・・・・・・・・・・・」


流れる沈黙が、これほど重いものだなんて知らなかった。

岩泉に体重をかけないよう、必死でベッドに片腕を突っ張るヨシノ。
体重を預けてもらえないことに情けなさを覚える岩泉。

満足に抱きしめることができなければ、抱きしめさせてももらえないのか。

どんなに岩泉が想っても、ヨシノの想いと交差することは無いのか。


十分・・・? いや、数分か。
頭を掴んでいる岩泉の手からわずかに力が抜けた瞬間を見計らい、ヨシノが体を離した。


「ちょっと・・・外で頭冷やしてくる」

「・・・・・・・・・・・・」


その瞳の端には、涙が滲んでいた。


「重かったよね。ごめんね、はじめ」


そう言って、病室から出ていくヨシノの背中を見ることができなかった。


追いかけることもできない。

繋ぎとめておくこともできない。

想いを打ち明けることもできない。


「ボゲがっ・・・!」


そんな自分がただ悔しくて、腹立たしくて。

岩泉は左手で顔を覆うと、ベッドに深く沈み込んで悪態をついた。



/ 117ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp