第3章 はじめの一歩(及川・岩泉)
「及川の時は、ただ飛べばそこにボールが来た。でも、大学入ってからは、トスに合わせようと無理して飛んでいた」
その結果、関節と筋肉に負担がかかりすぎてしまった。
レギュラー入りできない焦りも相まって、手遅れになるまでケガを放っておいてしまった。
筋肉痛から炎症。
炎症から断裂。
気づけば、ボールを打つことすらできない右腕になっていた。
「俺がエースでいられたのは、及川がいたからこそ・・・だったんだろうな」
きっと、及川と出会っていなくても、何らかの形でバレーには出会っていた。
もし、普通のセッターと一緒に成長していたら、身体が出来上がった後に無理をするということは無かったかもしれない。
「及川は自慢の相棒だよ。でも、アイツの本当の大きさを知ったのは、違う道に進んでからだった」
ボソッと呟いた岩泉のその力無い笑顔に、胸が痛む。
男気溢れる岩泉は高校時代、誰からも頼りにされる存在だった。
本当の意味で及川よりもずっとモテていた。
でも、いったい誰が・・・こんなに弱弱しい岩泉の姿を想像しただろうか。
「はじめ・・・」
手術後も、かつての仲間や後輩の前ではいつも通りだったが、心の底ではこんなことを考えていたなんて・・・
“及川と出会ってなければ、もうちょっと長くバレーができていたんじゃねぇか”
その言葉に隠された岩泉の気持ちを思うと、息苦しさを感じるほど悲しくなる。
「なんて顔してんだ、お前」
岩泉は少し困った様子で、ヨシノの顔を見上げた。
「・・・はじめこそ・・・なんて顔してんのよ」
そんな悲しそうな顔をしないで。
もう全てが終わったように言わないで。
「ごめん・・・私・・・どうしてあげればいいのか分からない」
何重にも巻かれた白い包帯に手を添える。
「何て言ってあげればいいか分からない」
そっと撫でてもそこは無機質で、脈拍も体温も感じず・・・
本当にこれが、強烈なスパイクを打っていた腕なのだろうかと疑ってしまう。
「・・・ヨシノ!」
長い左腕が伸びてきたと思った瞬間、後頭部を掴まれ、胸に引き寄せられた。