第3章 はじめの一歩(及川・岩泉)
「私はバレーのことを何も知らない・・・けれど、及川とはじめがコートで並んでいるのを見るのが好きだった」
“お前は俺の自慢の相棒で、ちょうスゲェセッターだ”
「だから・・・悔しくて・・・悲しいよね」
“この先チームが変わってもそれは変わんねぇ”
もう、二度と・・・及川のトスが自分に上がることはない。
青城のOBや後輩、影山たちには、自分が右肩とひじを故障したことを及川に伝えるなと釘を刺した。
及川に迷惑をかけたくない、とかいう崇高な理由ではない。
ただ悔しくて・・・顔を見たくなかった。
「こうやってベットの上で動けねぇでいると・・・思うことがある」
決して逆流することのない時間。
何かの奇跡が起こって、その流れを変えることができるなら・・・
「及川と出会ってなければ、もうちょっと長くバレーができていたんじゃねぇかって」
自分の身体のことは、自分が一番よく分かる。
もう二度と、前のようにスパイクは打てない。
それに・・・“エース”としての信頼も、もう二度と得ることはできない。
「そんなの・・・悲しすぎる・・・」
青城のバレーは何度も見た。
強豪校だったし、岩泉と同じクラス、花巻とは中学からの腐れ縁。
応援をしに行く理由はいくつもあった。
及川と岩泉の連携を初めて目にした時、鳥肌がたったのを覚えている。
普段は優男の及川が、バレーでは鬼神のような一面を見せる。
誰に対しても柔和な及川が、バレーでは凄まじい力で相手を叩き伏せる。
その姿に胸が高鳴った。
そんな彼と肩を並べて戦う、岩泉たちがとても羨ましいと思った。
中でも一番の信頼を寄せられていたのが、岩泉だ。
「及川と出会ってなければって・・・それを聞いたら及川・・・悲しむと思う・・・」
分かってる。
及川がどう思うか、なんて今の岩泉に考えられるわけがない。
自分の気持ちを整理するだけで精いっぱいなのに、他人の気持ちにまで気を使っている余裕はない。
小学校の頃から全てを注いできた、バレーへの道が閉ざされようとしているのだから・・・