第3章 はじめの一歩(及川・岩泉)
「別に、アイツには関係のないことだ」
「でも・・・及川はきっと、はじめが大ケガしたって聞いたら飛んでくると思う」
「だから、だろ」
その話題には触れて欲しくなかった、とばかりに顔をしかめる。
「アイツは今、わき目もふらずにバレーを追っかけていなきゃいけねぇ時だ」
“岩ちゃん、東京の大学においでよ”
「あとになって、あーだこーだ文句言われたくねぇし」
進路を決める、最後の日。
及川と同じ東京の強豪校に行くと決めてたら、どのような結果になっていただろうか。
でも、東京でも入学早々レギュラーに入った及川だ、コンビを続けたくても周りがそれを許さなかっただろう。
多分、違うチームに振り分けられて、結果的に無理をすることになっていた。
岩泉はひざの上で存在を忘れられていた、バレー雑誌に目を落とした。
「それに信じられねぇけど、もう“全日本”野郎だからな」
今月号には、学生ながら全日本メンバーに登録された及川の記事が掲載されている。
それほど大きな扱いではないものの、相変わらず誰が見ても女たらしな笑顔の写真まで載っていた。
高校を卒業してからたった二年しか経っていないのに、随分と差が開いたものだ。
もう、決して追いつくことができない差となってしまったが・・・
「日本の国旗背負ってバレーするヤツが、俺のケガなんぞで集中切らせてたら、逆に頭突き喰らわしてやる」
「・・・・・・・・・・・・」
本当は岩泉だって、及川と肩を並べてその舞台に立ちたかっただろう。
肩とひじの故障さえなければ、何年かかってもたどり着いたと思う。
それだけの努力ができる人だ。
「なんだか・・・悔しいね」
でも、努力だけじゃどうにもならない時がある。
「それに・・・悲しい」
強い思いだけじゃ叶わない夢もある。
「及川とはじめって・・・すごいコンビだったんでしょ」
窓の外で、空に向かって伸びる木の枝。
よく見れば、小さな蕾が開花の時を待っている。
春が訪れば、綺麗な花を咲かせるだろう。
しかし、目の前にいる一人のバレーボール選手は、開花を待たずして地面に落ちようとしている。