第3章 はじめの一歩(及川・岩泉)
漫画本、ゲーム、菓子、花などたくさんの見舞いの品が並んでいる。
手術を受けてからまだ二日だというのに、いろんな人間が病室を訪れた証拠だ。
「烏野高校の・・・なんだっけ、及川が嫌ってるセッターと、有名な小さな巨人が来たんでしょ」
「影山と日向な。ガラにもなく花なんか持ってきた」
“似合わねーだろ”と岩泉は笑うが、影山が照れくさそうに突き出した花はちゃんと花瓶に差してある。
「あいつらも、もう卒業なんだよな。早ェな・・・」
高校最後の試合。
まだ一年だったその二人を前に、自分たちは敗れた。
「あの時の青城は最高だった。花巻や松川、渡、矢巾、金田一、国見・・・」
懐かしさと、もう少しあのメンバーで戦いたかったという悔しさ。
その両方で、大きな吊り目を細める。
「みんなお見舞いに来てくれたよね。はじめが卒業してから二年も経っているのに」
「・・・ありがてぇな」
「そういえば、京谷君も来てくれたよね」
「あいつな! 手術したその日の夜に来た時は何事かと思った」
一人でひょっこりと現れ、無言でハミチキを差し出された時は驚いた。
誰から聞いたのか知らないが、岩泉が手術を受けるということで、彼なりに心配してくれたのだろう。
翌日には青城のOBや後輩が揃って顔を見せてくれたが、京谷が来たと言ったらみんなも驚いていた。
“京谷も誘ったのに既読無視したんで放っておいたんですけど。抜け駆けとかマジでありえねえ”と矢巾が悔しそうにしていたっけ。
及川が聞いたら“は? どこが!”と膨れるかもしれないが、京谷もあれで可愛い後輩だと思う。
「大学のチームメイトの人もひっきりなしに来てくれるし、はじめはそれほどのバレー選手だということだよね」
「・・・・・・・・・・・・」
だけど、その中に及川の名前はない。
「ねぇ、はじめ・・・」
ヨシノはテーブルに散らばった飴の包み紙を片付けながら、ちらりと岩泉に目を向けた。
「どうして及川には手術のことを知らせちゃいけないの?」
「・・・・・・・・・・・・」
開け放した窓から、サァッと風が舞い込んだ。