第3章 はじめの一歩(及川・岩泉)
「それと、少年ジャンプの今週号」
「お、頼もうと思ってたやつ。サンキュー」
「マッキーが、“岩泉はエッチな雑誌の方が喜ぶ”って言ってたけど却下したからね。残念でした」
「オイ」
花巻の野郎、変なことを言いやがって。
こめかみに青筋を立てる岩泉に、ヨシノは声をあげて笑った。
今の岩泉にとって、暇つぶしはバレー雑誌よりも漫画の方が良い。
いや、エロ本の方がもっと良いのかもしれないが。
「はい、どうぞ。あとで私にも読ませて」
利き腕ではない左手で受け取ろうとしたせいか距離感がつかめず、ジャンプを手渡してくれたヨシノの指先に触れてしまった。
「あ、悪い」
「え?」
一瞬焦り、手をひっこめたのは岩泉。
ヨシノの方はきょとんとしながら、布団の上に落ちた本を拾い上げた。
「力が入らないの? 枕のところに置いておくね」
「・・・おう」
手が触れても普通にしていられるのは、ヨシノにとって岩泉が“ただの友達”だから。
自分一人が意識してしまっている事に、やりきれなさを覚える。
「なんか汗かいてる。顔でも拭く? タオルを絞ってこようか」
「いや、いい」
「そう?」
母親から頼まれているとはいえ、恋人でもないのに嫌がらずに世話をしてくれる。
そんなヨシノに期待してしまいそうになるのを、必死に堪える。
彼女の気持ちは別の方へ向いているし、自分の淡い期待など必ず打ち砕かれることを知っているからだ。
ヨシノは高校の時からずっと、たった一人の男を見つめ続けている。
きっと、看病をしてくれているのも、自分がそいつと幼馴染だからだろう。
「あ、そうだ、忘れるところだった。及川の」
その男の名前に、岩泉のこめかみがピクリと動いた。