第1章 小鳥の巣(リヴァイ)
「お前が彼女を過少評価しているからだ」
「別に過小評価しているつもりはない」
「だが以前、ヨシノについて“まだ班長を担うのは荷が重すぎる”と言っていただろう」
「お前がそうすべきだと思うなら、俺なんかの意見など聞かずにそうすればいい」
過小評価をしているわけでもない。
兵士として褒めるに値しない、ただそれだけのこと。
そのような者は他にも大勢いる。
エルヴィンは何かを言いかけたが、“そうか”とだけ呟き、机の上に作戦企画紙を広げた。
そして、配置箇所を示す記号の一つを指さし、リヴァイに静かな瞳を向ける。
「ヨシノには、初列・索敵班を率いてもらおうと思っている」
それは、長距離索敵陣形の中で、最も巨人との遭遇率が高い場所。
リヴァイは眉一つ動かさずに、エルヴィンの長い人差し指を見つめた。
一個の班の長として、最も死ぬ確率が高い場所に配列される。
できるのか・・・?
アイツに・・・
「お前が決めることだ、エルヴィン」
リヴァイは作戦企画紙から目を逸らし、再び窓の向こうを見つめた。
もう聞こえない、鳥の声。
もし、異論を唱えることが許されるならば・・・
もし、自分の本心を吐露することが許されるならば・・・
「俺はお前の決めたことに従う、ただそれだけだ」
彼女を“巣”で覆い囲い、一切の温もりを与えずに、永遠に眠らせたままにしておきたい。
そうすれば・・・天敵だらけの、この残酷な世界を知らずに済むだろう・・・
しかし、リヴァイの口からは異論も、本心も、語られることはなかった。