第3章 はじめの一歩(及川・岩泉)
「俺はバレーボール選手として終わり・・・ってことっすね」
思えば、高校卒業と同時にカウントダウンが始まっていたのかもしれない。
及川は春高予選に敗退した直後、インカレ2連覇の大学から声がかかり、東京に行くことになった。
その一方で、岩泉は東北の大学を選んだ。
それでも、北の強豪と称されるチーム。
青葉城西のエースといえど、入学後、岩泉はベンチ入りすらできない一年間を過ごした。
出場機会が増え始めたのは、大学二年の夏。
秋の大会では一試合だけ先発として出場した。
179.3センチという身長は、大学バレーでは小さい部類に入る。
だが、人並み以上のパワーと根性でユニフォームを勝ち取り、ポジションを勝ち取り、出場機会を勝ち取った。
でも、少しずつだが、確実に歯車は狂っていた。
最初は、肩に違和感がある程度だった。
練習後のケアが足りないと思い、アイシングを徹底した。
それでも日々、違和感は少しずつ強くなっていき、気づけば痛みに変わっていた。
せっかく試合に出られるようになったんだ。
ケガなんてしていられるか。
強い気持ちを持てば持つほど、あざ笑うかのように増していった痛み。
スパイカーだから、肩をテーピングで固定することはできない。
注射を打って試合に臨む日もあった。
「もう少し早く治療を始めていたら、違っていたかもしれない。残念だよ」
「・・・・・・・・・・・・」
もうすぐ新年度だ。
白鳥沢を始め、東北各地のバレー名門校から大勢の新入生が入部してくるだろう。
当然、離脱している岩泉のポジションは誰かに明け渡すことになり、下手すれば背番号も失う。
一から出直すには、遅すぎた。
「もともと俺には一年という時間はなかった。バレーにも未練はありません、だから・・・」
大学二年が終わろうとしている今、出せる答えは一つだけ。
「普通の手術をお願いします」
頭を深々と下げる岩泉の手は、悔しさで震えながらジャージを掴んでいた。