第3章 はじめの一歩(及川・岩泉)
「右肩回旋筋腱板の完全断裂。それに、右ひじの側副靭帯も損傷している」
医者の診断は、岩泉にとって死刑宣告も同然だった。
3月下旬。
東北の地にも春の匂いが漂い始める頃。
岩泉は仙台の大学病院にいた。
「それ・・・手術が必要ということっすか」
すると、医者はカルテをひざの上に置き、沈痛な面持ちで頷く。
「日常生活に支障をきたすほどの痛みだろう。靭帯を修復しなければいけない」
「・・・治るまでにどれくらいかかるんですか?」
「それほど長いリハビリは必要ないよ。君は若いし、回復も早いだろう」
「バレーは・・・またできるようになりますか?」
「・・・・・・・・・・・・」
最近、仙台もずいぶんと温かくなってきた。
診察室の白いカーテンの隙間から、眠気を誘う太陽の光が差し込んでくる。
しかし、岩泉の心は暗く、重かった。
「君は大学でバレーボールをやっているんだったね」
一呼吸置いてから、黒ぶちメガネの奥からツンツン頭を見つめる。
「肩のケガよりも、ひじのケガの方が重傷なんだ。希望すれば、ひじの靭帯を下半身の腱と挿げ替えるという手術もある」
「・・・・・・・・・・・・」
「だがその場合、再びボールに触れるようになるまでに半年。本格的なプレーができるようになるまで、最低一年かかるだろう」
最低、一年。
その数字は、岩泉にとって絶望を意味するものだった。
「もしその手術をしないで、ただの修復手術だったらどうなるんですか?」
「抜本的な治療ではないから、再発の恐れがある。それに・・・」
トップレベルでのプレーは、二度とできない。
その言葉は、岩泉を絶望に突き落とすものだった。
「・・・・・・・・・・・・」
血が出るほど唇をかみしめながら、床の一点をただ見つめるバレーボール選手。
整形外科医という職業柄、担当医はそのような人間をごまんと見てきた。
だけど、こればっかりは何十年たっても慣れそうにない。
選手寿命を宣告する瞬間、というのは・・・