第2章 カカオフィズ(及川・岩泉)
“お前は多分、じいさんになるくらいまで幸せになれない”
「いいねそれ。やけ酒の方が面白そうだけど」
“完璧に満足なんてできずに一生バレーを追っかけて生きていく”
「言っとくけど、岩ちゃんがヨシノのようにつぶれても、俺は放って帰るからね」
“でも迷わず進めよ”
二人が同じコートに立った、最後の試合。
あの時の相棒の言葉が、自分の背中を何度も押してくれた。
そして、その言葉のために、及川とヨシノが結ばれることはなかった。
「じゃあ、ここは俺が払うよ」
及川はまだ寝ているヨシノの方に歩み寄ると、背中にそっと指を置いた。
今度は制止する手もなく、撫でることが許される。
温かい・・・
そして・・・切ない。
「ヨシノ・・・今日は会いに来てくれてありがとう・・・」
でも、“ごめんね”とは言わない。
そうしたら、本当にさようならをしなければいけなくなるような気がした。
「本当にありがとう・・・」
幾年分の感謝を込め、少し汗ばんだ髪を梳く。
その指先はまるで壊れ物を扱うかのように優しかった。
数センチ横で及川がヨシノに触れている。
その光景を見ないように顔をそむけ、岩泉は残りわずかとなったチャイナ・ブルーを喉に流し込む。
午前0時2分。
バレンタインデーは終わった。