第2章 カカオフィズ(及川・岩泉)
「悪い奴だねぇ、岩ちゃんは。人のチョコを横取りするんだから」
「はあ?!」
さっきと言っていることが違うじゃねぇか、と言いかけると、及川はコートを羽織りながら微笑んだ。
「俺は今日、約束をすっぽかした。ここには来なかった。ヨシノにはそう説明しなよ」
「・・・?」
「心の優しい及川さんが、岩ちゃんが悪者にならないようにしてあげるって言ってるんだよ」
マフラーを巻き、“だから・・・”と低い声で呟く。
「ヨシノのこと、絶対に泣かせるな」
「及川・・・」
「コイツのことを泣かせていいのは俺だけだからね、バーカ」
誰かのせいで悲しんでいるヨシノを見るのは我慢できないから。
自分が原因で泣かせているのなら、自分を責めればいいだけのこと。
「ま、俺には遠く及ばないにしても? 岩ちゃんでもヨシノをそこそこ幸せにしてやれるだろうしね」
お道化たように舌を出し、ピースして見せる及川に、それまで強張った顔をしていた岩泉にも笑みが浮かぶ。
「そうだ・・・その通りだな」
「え、怖ッ! その笑顔、なんか怖い!」
「・・・やっぱ、ぶっ飛ばしてやろうか」
もう何年も抱えてきて、この先も付き合っていかなければいかないと思っていた、一方通行の想い。
だが、今日。
こうしてかつての盟友に背中を押され、終わらせる決心がついた。
「ヨシノのお前宛てのチョコは、俺が差し押さえる。ヨシノの気持ちは、お前には渡さねえよ」
「どうぞどうぞ」
「あと、ここの会計はお前持ちな」
「はっ?! チョコを差し押さえられた上に、奢らされるって散々じゃない?!」
「こっちは遅れてきた罰だ、ボゲ」
「ぐっ・・・」
どう言い返してやろうかと考えあぐねていると、岩泉は及川を見上げ、口の端を上げる。
「次は俺が奢る」
「岩ちゃん・・・?」
「祝い酒になるか、やけ酒になるかは分からんが、お前にはとことん付き合ってもらうつもりだから覚悟しとけ」
二人の視線が交差する。
もうこれ以上の言葉はいらなかった。