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【短編集】夢工房。

第2章 カカオフィズ(及川・岩泉)




「なに。感傷的になるのは岩ちゃんらしくないよ」

「お前が聞いてきたんだろ、クズ川」


何度、この二人の間でこんなやり取りが繰り返されただろう。



仲間として肩を並べ、
同じ夢を追いかけ、
喜びを分かち合い、
悔し涙を流し合った。

数年前までは全てが当たり前だった。

だが、互いに別々の道に進み、一人はバレーボールを続け、一人はバレーボールを断念した。

全てが当たり前でなくなった今。
願うのは、たった一つ。



「ヨシノが・・・たまたま2月14日に休みが取れたって言うから」
「うん」
「たまたまお前に連絡したら、時間が取れるって返事が来たっていうから」
「うん」
「でも、一人じゃ不安だからついてきて欲しいって言うから」
「で、岩ちゃんも“たまたま”時間が取れたんでしょ」

軽い口調で返すと、吊り上がり気味な大きな瞳を及川に向ける。

「いや、かなり無理した。それに、悩んだ」

「プッ・・・正直者だね」


ヨシノは怖かったのだろう。

バレンタインデーに及川と二人で会うことに。
高校時代から何年もずっと抱えてきた恋心に、一人で決着をつけることに。


「なのにお前は、何時間も遅刻してきやがった」
「・・・・・・・・・・・・」
「それがお前の“答え”なのかよ」
「さあ・・・どうだろうね」

ヨシノの気持ちには、高校を卒業する前から気が付いていた。
同時に、岩泉のヨシノに対する気持ちも。


“2月14日に東京に行こうと思う。バレンタインだけど会えそう?”


久しぶりにきたメールに、どれだけ心動かされただろう。

今も“当たり前”に自分に向けられているヨシノの気持ちに、どれだけ安心しただろう。


「お前さあ、本っ当にゲス野郎だな」
「それ、白鳥沢の怪物くん的なカンジ?」
「おー、懐かしいな、天童。じゃねーよッ、そのままの意味だ」
「ノリツッコミ下手すぎ」

クックッと押し殺すように笑う及川。
もし、ここに花巻や松川も居たら、もっとギャアギャアやっていたかもしれない。

アイツらとはたった3年間しか一緒にいなかったのに。
一緒にいた時間よりも、卒業してからの時間の方が長いというのに。

まるで昨日のことのように思い出せるのは何故だろう。



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