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【短編集】夢工房。

第2章 カカオフィズ(及川・岩泉)




「で、ヨシノとはどこまでいったの?」
「は?」
「さすがにエッチくらいはしたでしょ」
「してねえよ!!」

どうやら火に油を注いでしまったようだ。
でも、こっちの怒り方は大丈夫。

及川は悪戯っぽく微笑みながら幼馴染を見た。

「二人で東京来るっていうから、てっきり“お付き合い始めました”の報告されるんじゃないかと思ってたんだけど」

「・・・ヨシノの気持ちを知っててそう言ってんなら、今ここでぶっ飛ばす」

「ああ、そう」


そう・・・か。


「・・・・・・・・・」


店内に流れている、ハスキーボイスが魅力的な女性ボーカルのジャズ。
前にも聴いたことがあるような気がする。

名前を無理に思い出そうとしているのは、目の前の二人のことを思考から追い出そうとしているからか。


岩泉の手元で揺れている、チャイナ・ブルーを見つめる。


「ていうか岩ちゃん・・・そんな甘いのが好きなんだっけ?」
「いや・・・むしろ苦手だ」
「だよね。どちらかというと芋焼酎とか男臭いのが似合う」
「ほっとけ」
「じゃあ、何でそんなの頼んだの。ヨシノが残した?」
「違う」

ヨシノがダウンして、一人で時間をつぶさなくてはいけなくなった時。
メニューに写真が載っていたこのカクテルを目にした瞬間、どうしてもこれを頼まなければいけないような気がした。


なぜ、これでなければいけなかった?

そもそも、なんで及川は絶対に来ると確信していたんだろう。


「わかんねーけど・・・“懐かしい”からかな」


その言葉に、及川の薄茶色の瞳が揺れた。




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