第2章 カカオフィズ(及川・岩泉)
身長は185センチだろうか。
チャイナ・ブルーを揺らしていた彼と知り合いらしく、片手を挙げながら、爽やかな笑顔を向けている。
そして、カウンターの向こうにいるマスターに軽く会釈し、“ジントニック”と告げた。
「久しぶり、岩ちゃん」
「おせえよ、グズ川」
「ちょ、それが半年ぶりに顔を合わせた幼馴染への第一声?!」
口調の割に笑顔を崩していないのは、その掛け合いが二人にとって当たり前だからか。
しかし、待ちぼうけを食らわされていた方は、本当に苛立っているようだった。
「約束は7時だっただろうが」
「んー・・・まあ、俺もいろいろと忙しくてさ」
「メールも既読無視しやがって」
「だって、“どこにいるんだ”とか、“あとどれくらい遅れる”とか、お母ちゃんみたいにうるさいんだもん」
昔のノリだったら、背中に一発蹴りを入れていたかもしれない。
でも、それをしないのは、ここが大人の社交場というだけではないだろう。
昔とは違う、二人の“距離”が躊躇わせる。
互いに少し寂しさを感じながらも、それを表に出さなかった。
「で、なに。ヨシノは酔いつぶれてんの?」
「お前を待っている間にキツイの5杯ほど飲んでつぶれた。コイツ、あんまり強くねーから」
「マジ? 大丈夫かよ」
「1時間ほど前に便所でゲロってたけど、少し寝れば大丈夫だろ」
「ふーん」
マフラーを外しながら、少し苦しそうに上下しているヨシノの背中を撫でようとした時だった。
大きな手が、それを制止するように手首を掴む。
「ヨシノに触るな」
「怖っ・・・怒ってんの?」
「誰のせいで深酒したと思ってる」
「・・・俺も罪な男でごめんね」
岩泉はチッと舌打ちをした。
相変わらず、鼻持ちならないヤツだ。
バレーボール選手としては尊敬しているが、それも繋がりがなくなった今、本当に絶縁してやろうか、とすら思う。