第1章 小鳥の巣(リヴァイ)
「初めて兵長の口から・・・私を認めるという言葉を聞きました・・・」
そして、初めて・・・
「兵長が・・・私をクソガキじゃなく・・・名前で読んでくれた・・・」
調査兵団に入団してから、一度も名前で呼んでもらったことが無かった。
誰よりもこの人に憧れ、少しでも追い付けるように努力してきたのに、一度として“大人”として見てくれなかった。
すると、リヴァイの瞳が切なげに揺れる。
「お前はもうガキじゃない・・・残念だが」
「え?」
「ガキっていうのは、ただ自分の感情のままに生きている奴のことだ。てめぇの非力さも、無知も知らず、責任など負いもせずにな」
だけど、ヨシノは責任を負う立場となった。
ただ命令に従うだけでなく、自らが決断し、誰かの命を左右するようになった。
そして・・・自分の非力さを知った。
そう。
これからは、己の弱さとともに生きていかなければならない。
今まで以上に辛いことがあるだろう。
自分を許せなくなることもあるだろう。
「お前はこの先、いくつもの選択を強いられるだろう。中には、どちらを選んでも後悔しか残らない選択もあるかもしれない」
それが“大人”になるということだ。
「だが、忘れるな。お前がどのような選択をしても、お前の決断は俺が認める」
できることなら、少しでも長くヨシノの涙を見ずにいたかった。
彼女の幼稚な純粋さが、死を見すぎたリヴァイにとって救いだった。
だが、覆い囲んでいた巣から旅立つ時が来たようだ。
「だから・・・一人で全てを抱えるんじゃねぇぞ」
リヴァイはヨシノから目を逸らし、空を見上げた。
その瞬間、作戦会議室の前の屋根から、一羽の小鳥が飛び出っていく。
ピチチチチ・・・
親鳥よりも小さく、ぎこちない羽ばたき。
そして、リヴァイとヨシノの姿を見つけると、円を描くように頭上を飛んだ。
“助けてくれてありがとう”
まるで礼を言っているかのように。
「あの鳥・・・生きていたんだ・・・」
「ああ・・・巣立っていくようだな」
お前もいつか、俺の目の届かない場所へ飛び去っていくのか。
それとも、自由の翼を広げ、俺の隣を飛んでいくか。
ヨシノ・・・
お前は・・・どちらを選択するのだろうな。