第1章 小鳥の巣(リヴァイ)
リヴァイはヨシノの方に顔を向け、視線を合わせる。
まだ涙の痕が残る頬を冷たい両手で包み、そっと引き寄せた。
二人の距離、わずか10センチ。
あまりに近さに、ヨシノの肩がピクッと震える。
しかし、リヴァイは涼しい顔をしていた。
「酷ぇ顔だ。さっさと水で洗って来い」
「わ、わかりました!」
自分の顔が火照っているのが、鏡を見ずとも分かる。
こんなに近くで見つめられたら、ドキドキしても仕方がない。
普段は他人と距離を置いている兵士長だから、余計に緊張してしまう。
「一瞬・・・兵長にキスされるのかと思いました」
「・・・・・・・・・・・・」
すると、リヴァイはヨシノの目を真っ直ぐと見ながら、眉間にシワを寄せる。
「・・・誰が、その涙と鼻水にまみれた唇にキスすると思うんだ。汚ぇな」
「き、汚いって・・・! 兵長が潔癖症なのは知っていますが、それは酷いですよ」
「喚くな、クソガキ」
「またガキって・・・! 私を認めるって言ってくださったのは、嘘ですか?!」
大人になったとはいっても、ヨシノの子どもっぽさはそのままか。
リヴァイは肩をすくめた。
しかし、涙が止まって良かった。
「早く、顔を洗ってこいって言ってるだろうが」
そしたら、不意打ちでキスをして、腰を抜かせてやろう。
ヨシノ・・・
お前が大人になったことは残念だが、嬉しくもある。
これでいつか俺の心を打ち明けても、お前を押しつぶすことはないだろう。
大空高くに飛んでいく小鳥。
リヴァイは“二羽”の雛の成長を想い、三白眼を細めた。
第1章 『小鳥の巣』 Fin.